やる気みなぎの奮闘日記|第2期 第2話(新人の夜勤指導)

目次

「初めての夜勤。緊張しているのは僕だけじゃなかった。」

19時。

交代ミーティングが終わり、現場は夜の空気に切り替わっていた。

今日の夜勤は、僕――八琉木みなぎ(やるき みなぎ)と、
新人の涼風しずく(すずかぜ しずく)の2人だ。

涼風さんにとっては、これが初めての夜勤だった。

僕は2年目の介護士だ。
ようやく現場にも慣れ、夜勤も少しだけ「怖くない」ものになってきたところ。
だけど、涼風さんにとっては、今日が初めて。
緊張している様子は、見ればすぐにわかった。

「涼風さん、緊張してる?」

声をかけると、涼風さんは一度だけ小さくうなずいた。

涼風さんは、クールな雰囲気の新人さんだ。
感情をあまり表に出さないけど、その分、一生懸命なところがよく伝わってくる。

「大丈夫。僕も1年前は、同じだったからさ。」

思わず、そんな言葉がこぼれた。

……ふと、思い出す。
僕が初めて夜勤に入ったとき、隣にいてくれたのは三谷さんだった。

どんなに不安でも、
「大丈夫だよ」と言って、さりげなく支えてくれた、あの背中。

今度は僕が、支える番なんだ――そんな気がした。

「困ったら、すぐ声かけてね。一緒に頑張ろう。」

涼風さんは、はにかんだような、小さな笑顔を見せた。

さあ、夜勤のスタートだ。

19時30分、休憩室でのひととき。

最初の巡視を終えて、
僕たちは休憩室へ戻ってきた。

「涼風さん、お疲れさま。ちょっと休憩しよっか。」

声をかけると、涼風さんは小さくうなずいた。

休憩室のソファに腰を下ろし、
僕は持ってきた水筒のフタを開けた。

涼風さんも、静かに自分のマグボトルを手に取る。

少しの間、二人で静かに水分をとる。

ふと、僕はスマホを取り出した。

――夜勤に入る前に、少しだけ見返しておこう。

開いたのは、ケアラルの動画サイト。
夜間せん妄についての対応ポイントを、ざっと確認する。

「……うん、やっぱり“声かけと環境調整”が大事だな。」

小さくうなずき、スマホをポケットにしまった。

現場は生き物だ。
どれだけ経験を積んでも、備えすぎるってことはない。

「……緊張、しますね。」

ぽつりと、涼風さんが言った。

「うん。最初の夜勤は、みんなそうだよ。」

僕は笑って答えた。

「僕も、最初の夜勤のときは……
あんまり覚えてないくらい、緊張してた。」

ふっと、あのときの自分を思い出す。

「でもね、何回かやっていくうちに、
ちゃんと“見えるよう”になるよ。」

涼風さんは、黙って耳を傾けていた。

「……涼風さんも、すぐ慣れる。
大丈夫。」

小さな休憩室に、静かな時間が流れた。

この休憩が終われば、
また現場に戻る。

夜は、まだ長い。

21時、夜の深まりと小さな異変。

21時。

2回目の巡視に出る時間になった。

「涼風さん、行こうか。」

声をかけると、涼風さんは少し緊張した面持ちで懐中電灯を手に取った。

現場は消灯していて、
フロアは薄暗く、しんと静まり返っている。

一室ずつ、寝ている利用者さんたちの様子を確認していく。

そんな中だった。

「うーん、うーん……」

小さなうめき声が聞こえた。

「涼風さん、ちょっと待って。」

僕は声をひそめて言い、音のする部屋に近づく。

ベッドの上では、
ひとりの利用者さんが、汗をかきながら寝返りを打っていた。

浅い眠りの中で不安を感じている――
いわゆる夜間せん妄の初期症状かもしれない。

「〇〇さん、大丈夫ですよ。ここは○○(施設名)ですよ。」

僕はそっと声をかけた。

利用者さんは、はっと目を開け、
少しだけ表情を落ち着かせた。

「……ふう、大丈夫そうだ。」

小声で涼風さんに伝える。

「こんなふうに、夜はちょっとした不安で落ち着かなくなる人もいるんだ。
驚かないでね。」

涼風さんは、真剣な表情で何度も頷いていた。

夜勤の現場は、
昼間とは違う”見えない緊張”に満ちている。

僕たちは、静かに、慎重に、夜を歩いていった。

23時、そして深夜。静けさの中で。

23時。

利用者さんたちは、
それぞれのベッドで静かに休んでいた。

僕たちはまた巡視に出た。

0時、1時、3時……
時間は静かに流れていく。

深夜の現場は、孤独で、静かで、
でも、誰かの生活を支えるための大切な時間だった。

涼風さんは、眠気と緊張の中、
一生懸命、現場に向き合っていた。

そんな姿を見て、僕は心の中で小さくうなずいた。

――きっと大丈夫だ。

5時、朝の気配と、乗り越えた夜。

5時。

外はまだ暗いけれど、
現場には少しずつ朝の気配が漂いはじめた。

「涼風さん、もうすぐ起床の時間だね。」

僕が声をかけると、
涼風さんはすこし眠たそうにしながらも、顔を上げた。

「起きられそうな人から、トイレ誘導していこうか。」

そう伝えて、一緒に動き出す。

ひとり、またひとり。
ベッドからそっと起こしていく。

焦らず、慌てず。
一歩ずつ。

7時少し前、
早番スタッフたちが出勤してきた。

夜が、終わろうとしていた。

「涼風さん、夜勤、乗り切ったね。」

僕が言うと、
涼風さんは、ふっと肩の力を抜いて笑った。

まだぎこちない、だけど確かな、笑顔だった。

「おつかれさま。」

たったその一言に、
今日のすべてを込めた。

夜明けの光が、ゆっくりと現場を満たしていく。

みなぎの一言日記

「初めての夜勤は、誰にとっても特別な夜。
でも、ひとりじゃない。そう思えるだけで、心強くなれる。」

みなぎメモ

  • 最初の夜勤はとにかく「焦らず・一緒に確認する」
  • 緊張している新人さんには、小さな声かけが安心材料
  • 自分も支えてもらった経験を、次の誰かに返していく

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・エピソードはすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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