第4話「ありがとうって言われた。僕のリベンジ成功。」
2024年4月8日(月)(晴)
少し肌寒いけど、空はよく晴れていた。
介護士として働きはじめて3週目。
毎日が緊張の連続だけど、少しずつ、自分のなかにも“慣れ”が出てきた気がする。
でも――
それと同時に、気持ちのどこかに、ずっと引っかかっていた。
あの出来事。4月5日。
利用者さんの「トイレに行きたい」にすぐ対応できなくて、間に合わなかった日のこと。
優しくフォローしてくれた先輩の言葉。
そして、「次は間に合わせる」と誓った自分。
あの日から、僕は“迷わないように”を心がけていた。
そして今日――そのチャンスが、やってきた。
廊下の掃除をしていたときだった。
「八琉木くん、トイレに行きたいんやけど…」
その声を聞いた瞬間、僕の中で何かがパチッと切り替わった。
(来た…!)
少し前と同じ利用者さんだった。
手にしていたモップを壁際に寄せ、僕はすぐに返事をした。
「今お連れしますね!」
今回は迷わなかった。
周りにいた先輩職員に「◯◯さん、トイレに行かれます」と一言だけ伝えて、誘導開始。
心の中ではドキドキしていたけど、利用者さんの歩調に合わせて落ち着いて歩いた。
(間に合ってくれ…)
トイレのドアを開け、ズボンの上げ下ろしを手伝い、
……無事、座ってもらうことができた。
「はあ〜、間に合ったね。ありがとうねぇ」
その言葉に、胸の奥がじわっと熱くなった。
前回とはまるで違う、その人の笑顔。
僕は思わず、心の中で「よっしゃあ…」と小さくガッツポーズを決めた。
その日の業務がひと段落した夕方、僕は休憩室で先輩に声をかけた。
「今日、◯◯さんのトイレ誘導、間に合いました。
ちゃんと“今行きます”ってすぐ動いて、報告もして、間に合ったんです」
ちょっと緊張しながらそう伝えると、先輩はにっこり笑って、言ってくれた。
「おぉ〜、やるやん!みなぎくん。よう動けたね」
それだけじゃない。
先輩は、僕の肩をぽんっと軽くたたきながら、やさしい目で続けた。
「ちゃんと声かけて、連携して動けたのもえらいよ。
“あのときの失敗”を、ちゃんと次に活かせたってことやけん。
……ほんと、少しずつやけど、成長しとるよ。うれしいなあ」
その一言が、心にじんと沁みた。
「ありがとうございます…!」
たった一言なのに、言葉が胸に残った。
そして何より、今回はあの利用者さんの“笑顔”を見られたことが、僕にとって何よりのごほうびだった。
📝 みなぎの一言日記
あのときの「ごめんね」を、今日は「ありがとう」に変えられた。
ちょっとだけ、自分をほめてもいいかな。
📌 みなぎメモ ~先輩から学んだこと~
- “迷わず動く”ことで、間に合う介助につながる。
- チームの誰かに声をかけるだけで、不安が減る。
- 失敗は次に活かせば「成長のきっかけ」になる。
- 成長は、小さな「できた!」の積み重ね。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・施設・出来事は実在のものではありません。
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