第7話:ヒヤリハットって、誰かを守るための記録だった
5月7日(火)晴れ。
春風が気持ちよくて、外出支援にはぴったりの日だった――
でも、その気の緩みが“ヒヤリ”につながるなんて、思ってもいなかった。
「段差、大丈夫よー…」その声に、背中がゾワッとした
今日は先輩職員の神原さんと一緒に、利用者のOさんを近所のスーパーへお連れする外出支援に同行した。
車いすでの支援は初めてじゃなかったけど、正直言って「気持ちが軽く」なってた。
慣れてきたと思ってたし、天気もいいし、Oさんもご機嫌だったから。
道中、Oさんは道端の花に気づいて「あら、きれいねぇ」と微笑んでいた。
そんなOさんの笑顔を見て、僕もつい気が緩んでしまった。
神原さんとの会話も弾んで、「このあたり、最近お店増えましたよね」なんて話していたくらいだ。
スーパーの入口にある小さな段差。
先輩が「段差いくよー」と言って後ろから車いすを押したその瞬間、前輪がつまづいて、車体がガクンと揺れた。
思わずOさんが「わっ」と声を上げ、僕の背中に一気に冷汗が走る。
神原さんがすぐに支えてくれたから、何も起きなかった――
買い物を終えたOさんは、レジ袋を膝の上に乗せながら「ありがとうねぇ、助かったわ」と僕に笑いかけてくれた。
その笑顔がまぶしくて、僕は思わず「いえいえ、大丈夫でしたか?」と返した。
内心では、さっきの段差の場面がまだ胸に残っていた。
でもOさんの「ありがとう」の一言が、僕の中の不安を少しだけやわらげてくれた。
でも、その“もしも”が、ずっと頭から離れなかった。
「ヒヤリハット、書いとこうか」その一言で知った、記録の意味
施設に戻ってから、神原さんがぽつりとつぶやいた。
「ヒヤリハット、書いとこうか。何も起きてないけど、共有しておいたほうがいいね」
え?「ヒヤリハットって、何か起きたときに書くものじゃないの?」
そう思ってたけど、先輩の話を聞いて、少しずつわかってきた。
ヒヤリハットって、実際に事故にならなかった“ヒヤッとした出来事”を記録すること。
何も起きなかったからこそ、忘れがちなその瞬間を、ちゃんと残しておく。
誰かを守るために、気づきをつなげていく――
それが、ヒヤリハットの本当の意味なんだって、今は思う。
そんなふうに思っていた僕に、神原さんはやさしく教えてくれた。
「実際に転倒やケガにはならなくても、“ヒヤッとした”っていう出来事こそ大事。
それを共有しないと、次の人が同じことを繰り返すかもしれないからね」
記録するのは、反省や報告のためじゃなくて、
“これから守るため”なんだ――
僕は、ちょっとだけ胸を張ってそのヒヤリハット報告書を書いた。
起きなかったからこそ、忘れちゃいけない
介護の現場では、「事故がなかったこと」にホッとしがちだ。
でも、実際は「事故になりかけたこと」にこそ、学びの種がある。
この日、僕は何もできなかった。
でも、あの“何も起きなかったこと”に、僕の未来がつながっている気がしている。
そして、先輩が帰り際に言ってくれた一言が、心に残っている。
「みなぎくん、初任者研修、そろそろ申し込んでみたら?
今日みたいな気づきが、きっと学びにもつながると思うよ」
正直、まだ自信はない。
でも、「ちゃんと学びたい」「もっと知っておきたい」って思ったのは本当だった。
だから、僕は決めた。
今度の休みの日、初任者研修の資料請求をしてみよう。
今日のヒヤリを、未来の“安全”につなげるために。
✏️ みなぎの一言日記
「もし僕が押していたら…」って思ったら、震えた。
ヒヤリハットって、自分のためだけじゃなく、
“これからの誰か”を守るための記録なんだ。
📘 みなぎメモ
- ヒヤリハットとは:事故にはならなかったけど「ヒヤッ」とした出来事のこと。
- なぜ記録するの?:「何もなかったから良かった」ではなく、次に同じことを繰り返さないため。
- チームで共有することが大事。先輩にも、後輩にも、情報を残すことが介護の安全につながる。
※この物語はフィクションですが、介護の現場で実際に起こり得るエピソードをもとに構成しています。
◀️ 前回(第6話)はこちら:
やる気みなぎシリーズ/第6話:ひとりじゃない。チームで支える介護の現場
▶️ 次回(第8話)はこちら:
やる気みなぎシリーズ/第8話:初任者研修に行ってみた!介護の“なぜ”がわかってきた
📚 やる気みなぎシリーズ 一覧はこちら:
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「もっと学びたい」「知識を身につけて、安心して支援したい」――そんなふうに感じたら、初任者研修や実務者研修の受講を検討してみるのも一つの方法です。
僕(みなぎ)も、ヒヤリとした経験をきっかけに、「もっと知っておきたい」と強く思いました。
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介護福祉士を目指すための「実務者研修」はもちろん、
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