【第8話】「初任者研修に行く日が来た――先輩に追いつきたくて、僕は今ここにいる」
📅〇月〇日(日) ☀晴れ
朝、いつもより1時間も早く目が覚めた。
緊張とちょっとしたワクワクが入り混じっていて、変な夢まで見ていた気がする。
今日は「初任者研修」初日。
これから何度か施設を離れて、座学や実技を受けることになっている。
スーツ姿の人。
パート帰りのような服装の主婦らしき人。
髪を染めた若い人もいた。
そんな中に混じって、「僕もここにいていいんだろうか」って、少しだけ不安になった。
講師の先生が最初に言った言葉が、胸に残っている。
「介護の基本は“見ること”です。相手を見ること。気持ちを見ること。そして、自分自身を見ること。」
その言葉を聞いた瞬間、
この前の外出支援の場面が頭に浮かんだ。
――ヒヤッとした、あの瞬間。
僕は車椅子を安全に押すことにばかり気を取られていた。
「段差に気をつけて、スピードを出しすぎないように」
そればかりを意識して、周囲の状況を見ていなかった。
だから、気づくのが遅れた。
先輩が声をかけてくれたから事なきを得たけれど、
もしあのままだったらと思うと、ゾッとする。
あの時、自分は“見ていた”つもりだったけど、
本当は「見えていなかった」んだ。
だから、今日ここにいる。
初任者研修を通して、もっと“見る”力をつけたい。
自分の目で、利用者さんの安全と気持ちを守れるようになりたい。
気づけば、メモ帳を開いていた。
先生の言葉を一つひとつ書き留めながら、
「もっと学びたい」って素直に思った。
そして――
「先輩に追いつきたい」って、本気で思った。
今までは、与えられた仕事をただこなすことで精一杯だった。
でも今はちがう。
「なんでこのケアをするのか」
「どうすればもっと良くなるのか」
それを考えることが、介護士としての第一歩なんだと思えた。
研修が終わって、施設に戻る途中のバスの中。
窓の外をぼーっと眺めながら、今日のことを思い返していた。
座学の内容は正直むずかしいところもあったし、実技ではうまくできない場面もあった。
だけど、不思議と「もうやりたくない」とは思わなかった。
むしろ、もっと知りたい、もっとできるようになりたい――
そんな気持ちが湧いてきた。
まだまだ、自分は知らないことばかり。
でも、知らないからこそ、知れるって嬉しい。
これからも、少しずつでいいから学んでいこう。
そして、先輩みたいに“ちゃんと見て、ちゃんと考えて動ける介護士”になりたい。
🗒️みなぎメモ
- 「見る」ということが、ケアのはじまり
- “安心して押す”ためには、“まわりを見る余裕”が必要
- 「学ぶこと」は、自分を守ることでもある
✍️みなぎの一言日記
勉強って苦手だったけど、今日は楽しかった。
なんでだろう。…たぶん、「意味」がわかってきたからかもしれない。
※この物語はフィクションですが、介護の現場で実際に起こり得るエピソードをもとに構成しています。
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