はじめに:その不安、あなただけじゃありません
「認知症の方ってどう接したらいいの?」
「同じことを何度も聞かれて、正直戸惑った…」
新人のころ、そんなふうに感じたことがある人は少なくありません。
でも、安心してください。
認知症についての理解は、一歩ずつで大丈夫。
大切なのは、正解を探すことではなく、「その方の気持ちに寄り添うこと」です。
認知症とは? もの忘れとの違い
認知症とは、脳の働きが少しずつ低下していくことで、日常生活に支障が出てくる状態のことを言います。
「昨日の夕飯を忘れる」「今が朝か夜か分からなくなる」など、記憶や見当識に影響が出てきます。
- 物忘れ:体験の一部を忘れる(例:おかずの名前が出てこない)
- 認知症:体験そのものを忘れる(例:ごはんを食べたことを忘れる)
よくある認知症の種類
- アルツハイマー型認知症:記憶障害が目立つ。最も多いタイプ(約6割)
- 血管性認知症:脳梗塞や脳出血が原因で起こる。症状にムラがある
- レビー小体型認知症:幻視や転倒、身体のこわばりが見られることも
- 前頭側頭型認知症(ピック病など):感情のコントロールや社会的行動に変化が現れる
よくある症状とその関わり方【事例あり】
事例①:「帰りたい」と言われたとき
利用者さん:「そろそろ帰らないと。母が心配するけん…」
新人職員(心の声):え?もう90代のはず…
先輩職員:「お母さん、心配されてるんですね。一緒に玄関のほうへ行ってみましょうか」
否定せず、「その人の世界」に寄り添うのが大切です。
事例②:「ごはんまだ?」と聞かれる
利用者さん:「昼飯はまだかの?」(すでに食べ終わっている)
新人:「さっき食べましたよ!」→ 利用者さんは不機嫌に
先輩:「そろそろおやつの時間ですね。コーヒーもありますよ」→ 落ち着いてくれた
正しさより、安心感を与える声かけがポイントです。
事例③:何度も同じ話をされる
利用者さん:「昔、汽車の運転しとったんじゃ」
新人:「へえ!すごいですね。どんなとこを走ってたんですか?」
“初めて聞いたふうに”反応するだけで、利用者さんの表情はパッと明るくなります。
対応の基本姿勢:“その人の世界”に寄り添う
- 否定しない:「違いますよ!」と否定するより、「そうなんですね」と受け止める
- 焦らせない:急かすと混乱が強まることも。ゆっくり、やさしくが基本
- 安心できる声かけ:トーンや表情で「この人は安心できる」と感じてもらう
事例④:感情が高ぶった利用者さんと、男性職員の落ち着いた対応
利用者さん(80代男性)は、普段は穏やかですが、
ある日の夕方、急にイライラした様子で声を荒げました。
「なんでワシはここにおるんか!帰らせろ!」
手を振り上げるような動作もあり、周りの職員が少し緊張した空気に。
男性職員(30代)が落ち着いたトーンでゆっくり近づき、低めの声で話しかけました。
「〇〇さん、大丈夫ですよ。今ちょっと気持ちがざわざわしとるんですね。ここに一緒に座って、深呼吸してみませんか?」
利用者さんは少しずつ呼吸を整え、イスに座りながら落ち着かれていきました。
関わり方や声かけは、チームで統一するとスムーズ
認知症の方は、日によって感情が不安定になることがあります。
そんな中で、スタッフによって対応や声かけがバラバラだと、かえって混乱を招くことも。
たとえば「帰りたい」と言われたとき、
Aさんは話を合わせて外へ誘導、Bさんは「ここがあなたの家ですよ」と説明…。
利用者さんが混乱してしまうケースもあります。
だからこそ、現場で「こういうときはこう対応しよう」と共有・統一しておくことがとても大切です。
完璧じゃなくても、「方向性をそろえる」だけで、利用者さんもスタッフも安心できます。
困ったときは、一人で抱え込まないで
認知症の方との関わりは、ときに戸惑いや「どうしたらいいのか分からない」と感じることがあります。
そんなときこそ、一人で抱え込まずにチームで支えることが大切です。
他職種に協力をお願いする
看護師さんや相談員さんなど、介護職以外の手を借りるのも有効です。
ただ「忙しくて…」と伝えるよりも、状況を具体的に伝えることがポイント。
例:「〇〇さんの対応で現場が1人です。入浴介助も重なっていて記録もまだ…」
記録を使って、上司に状況を伝える
記録や勤務表を見せて、どの時間帯に対応が集中しているかを示すと、上司も対策を立てやすくなります。
「毎日14時~15時に“帰宅願望”が強く出ている」など、客観的なデータがあると説得力が増します。
おわりに|たけのこの一言
認知症の方との関わりに、「完璧な正解」はありません。
でも、少しずつでも「こうすれば落ち着いてもらえるかも」とわかってくると、自信が持てるようになります。
最初は戸惑っても大丈夫。
1日1つ覚えれば、3ヶ月後には60の対応が身につきます。
ゆっくり、確実に。あなたのその気持ちが、きっと届きます。
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