【第1話】初出勤の不安と期待|新人介護士 八琉木みなぎの成長日記

新人介護士 八琉木みなぎの成長日記1

第1話「出勤初日――“初めまして”がうまく言えなかった」

2025年4月1日(月) 晴れ。

制服を着て玄関の鏡を見た。
「……なんか、まだ高校の実習生っぽいな」って、ちょっとだけ思った。
でも、今日からぼくは“職員”になる。
名札にはしっかり「八琉木みなぎ」の名前。
高校を卒業してすぐ、配属されたのはユニット型特別養護老人ホーム『やまなみ苑』
ぼくの介護士人生、ここから始まる。


「おはようございます!」

初めての申し送りの場面。緊張して声が裏返りそうだった。
先輩たちのメモを取るスピードが早くて焦る。
しかも、話してる言葉が半分くらい分からない。

「VSは9時で取りましょう。体位変換後、清拭あり」

え?体位変換?VS?清拭ってお風呂じゃないの?
メモに書くのも必死。でも…聞けなかった。聞く勇気が出なかった。


午前中、フロアに出た。
「初めまして。今日から入りました、八琉木みなぎです…」
自己紹介の声が思ったより小さくて、利用者さんに聞こえたかもわからない。

近くにいた女性の利用者さんが、ぼくの方を見て首をかしげた。

「え?なんて言ったと? 若かお兄ちゃんやねぇ」

あ、聞こえてなかった…って思ったその瞬間、先輩がやさしく声をかけてくれた。

「みなぎくんが今日から一緒に働くんですよ~」

するとその方は、ゆっくりぼくの顔を見て、にっこり笑った。

「そうね、今日からね。よろしくね。がんばってね」

…その言葉が、胸にすとんと落ちた。

ぼくはもう一度、少し大きな声で言ってみた。

「はい!よろしくお願いします!」

たったそれだけのやりとりだったけど、
「自分がここにいていいんだ」と、初めて思えた気がした。


午後、先輩に呼ばれて「トイレ誘導」へ同行。
車椅子のブレーキ、足置き、声かけ、ドアの開閉…
見ること、気をつけることが多すぎて、足が空回り。

でも先輩がポンと背中を押してくれた。

「大丈夫。最初は“見て覚える”だけで十分だよ」


🏡 その日の帰り道

帰りの更衣室で、先輩が「おつかれさま!」と声をかけてくれた。
「ありがとうござ…ます!」と、また少し噛んでしまったけど、笑ってもらえた。

ロッカーの中に入れていた小さなメモ帳を取り出す。
そこには、今日覚えた言葉や先輩のひと言がぎっしり。

玄関を出たら、夕方の風がちょっと冷たかった。
でも、心の中はちょっとだけあったかかった。

明日もここに来る。
今日より、ほんの少しだけうまくできたらいいな。


🌱 みなぎの一言日記

“初めまして”がうまく言えなかったけど、
「笑ってくれたこと」が、今日一番うれしかった。
明日は、もう少しだけ大きな声で挨拶してみよう。


💡 みなぎメモ:初日の豆知識

  • VS=バイタルサイン(体温・脈拍・血圧・呼吸)
  • 体位変換=姿勢を変えるケア。褥瘡予防や呼吸を楽にする目的も。
  • 清拭=身体を拭いて清潔を保つケア(入浴ができない時など)

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第2話:「“見て覚える”のその先へ。僕の手が動いた日」


※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、施設とは一切関係ありません。

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