【第5話】初めての入浴介助。僕は戦力になれたのか?|新人介護士 八琉木みなぎの成長日記

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初めての入浴介助――“怖さ”と“気づき”

「入浴介助」。
それは僕が一番緊張していたケアのひとつだった。
人の体に直接ふれながらの支援は、正直、怖かった。
でも――あの日、湯気の中で僕が得た“気づき”は、きっとずっと忘れないと思う。


2024年4月10日(水) 晴れ

「八琉木くん、今日の午後、一緒に入浴介助入ってもらおうか」

その一言で、僕の心臓は一気に跳ねた。
入浴介助――名前は聞いていたけれど、実際にやるのは初めて。
“失敗したらどうしよう”
“利用者さんにケガさせたら…”
不安でいっぱいだった。

更衣室で準備をしながら、先輩の高嶋さんが声をかけてくれた。

「緊張するかもしれないけど、まずは見てていいから。無理はしないで、ね」

ありがたかった。
高嶋さんはいつも落ち着いていて、ちょっとしたことにも気を配れる人だ。
僕もいつか、こんなふうに余裕のある介護士になりたいと思った。

入浴前のバイタルチェックを終えたら、脱衣所へ。
高嶋さんが丁寧に声をかけながら、服を脱がせていく様子を横で見ていた。
そして、僕の番がきた。

「じゃあ、次の方、お願いできる?」

――よし。
僕は小さく深呼吸して、利用者さんの前に立った。

「○○さん、お風呂に入りましょうか。お手伝いしますね」

足腰が弱い方で、立ち上がるのにも時間がかかる。
僕は片腕を支えながら、できるだけ本人のペースに合わせて動いた。
だけど、なんだろう。自分でも気づかないうちに、少し力が入りすぎていたみたいで――

「ちょっと、痛いよ…」

はっとして手をゆるめた。
高嶋さんがすぐにフォローに入ってくれて、なんとかお風呂まで案内できた。
僕の顔、たぶん真っ赤だったと思う。

浴室で、お湯の温度を確認する。
先輩がやっていたように、自分の腕で湯を感じてみた。
「うん、ちょうどいいかも」

「○○さん、少しあたたかいくらいですが、大丈夫そうですか?」

そんなふうに声をかけながら、そっと湯船に誘導していく。
そのときだった。
背中を支えた僕の手に、赤くなった皮膚が触れた。

「ここ、少し赤くなってますね…」

高嶋さんが確認し、「今日は長湯にならないようにしようか」と言ってくれた。
“皮膚の観察”――頭では知っていたけど、ようやく意味がわかった気がした。

湯船の中で○○さんがぽつりとつぶやいた。

「やっぱり、お風呂は気持ちいいねえ。……ありがとうね」

その言葉に、思わず胸がぎゅっとなった。
さっき少し痛い思いをさせたばかりなのに、そんなふうに言ってくれるなんて。

僕は、介護って“やること”じゃなくて、“人と関わること”なんだって、少しだけわかった気がした。

そしてもうひとつ。
“なんでも手伝えばいい”わけじゃないということも。

できることは、できるだけ自分でやってもらう。
僕たちは、“できないこと”や“苦手なこと”だけ、そっと支える。
それがプロの介護なんだと、先輩の動きを見て気づいた。


✏️みなぎの一言日記

“全部やってあげる”のが介護じゃない。
苦手なところだけ、さりげなく手伝う――
それがプロのしごとなんだと思った。


📝みなぎメモ

  • 入浴前には必ずバイタルチェック(体調確認)
  • 服の着脱は無理に引っぱらない。本人のペースを大切に
  • 湯温の確認は、自分の腕で実際に感じてから声かけ
  • 皮膚の赤みや乾燥など、“観察”も大事な仕事のひとつ!
  • できることは本人にまかせる。やりすぎないことも大事

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※この物語はフィクションですが、介護の現場で実際に起こり得るエピソードをもとに構成しています。

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