最期を見届ける強さ——それは、誰かの命のそばに静かに立つ覚悟のことだと思う。
「○○さん、今朝から呼吸が少し早くなってきています。ご家族にも連絡を入れておきましょうか」
申し送りのとき、看護師さんがそう静かに言った。
その一言に、場の空気が少しだけ変わった気がした。
今日の担当は僕。
三谷さんも、他の先輩もいない。
——つまり、僕が“最期のそばにいる人”になるのかもしれない。
午前中、○○さんのベッドサイドに向かうと、呼吸は浅く、速くなっていた。
目を閉じて、声をかけても反応はない。
でも、その手のぬくもりは、まだしっかりとそこにあった。
体の向きを整え、口腔ケアをし、唇を湿らせる。
ひとつひとつの動作が、ただの「介護」じゃない気がした。
丁寧に、ゆっくりと、心を込めて。
「涼宮さん、少し来てくれる?」
現場を回っていた涼宮さんを呼んだ。
一緒に更衣の介助をしながら、そっと伝える。
「たぶん、今日が…そのときかもしれない」
涼宮さんは黙ってうなずいた。
その表情は、いつもより少し大人びて見えた。
昼過ぎ、○○さんのご家族が到着した。
ほんの短い面会だったけど、手を握りながら
「ありがとうね。がんばったね」
「ずっと大好きだよ。…ありがとう…」
と、涙をこらえながら声をかけていた。
その声に応えるように、○○さんの胸が、ふうっと上下する。
——そして、最期のときが来た。
呼吸が止まり、看護師が脈を確認する。
医師が到着し、心電図を見ながら静かに告げた。
「○○さん、○時○分、死亡確認しました」
居室の空気が、ふっと変わった気がした。
さっきまでそこにいた“命”が、すっと遠くに行ってしまったような感覚。
僕は、そっと○○さんの手を握ったまま、小さくつぶやいた。
「○○さん…ありがとうございました」
帰り支度をしていると、涼宮さんがぽつりとつぶやいた。
「…すごかったです。みなぎさんの手、すごく優しかった」
「私、ちゃんと…できるかな」
「大丈夫。きっとそのときが来たら、君もわかる」
僕はそう返した。
そして心の中で、こう続けた。
——きっと、強くなれる。君も、僕も。
みなぎの一言日記
今日、自分が“立ち会う側”じゃなく、“見送る側”になった気がする。先輩から学んだ強さを、少しでもつなげたなら、それがきっと介護なんだと思う。
みなぎメモ
- 呼吸が早くなるのは看取りの兆候のひとつ
- 体の向きの調整・保清・口腔ケアなど、基本的なことを丁寧に
- 最期の声かけは、その人を“人として”見送る大切なケア
- 自分の緊張や不安も、現場での経験が少しずつ変えてくれる
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