やる気みなぎの奮闘日記 第8話(看取りケア)

やる気みなぎ【奮闘日記】

最期を見届ける強さ——それは、誰かの命のそばに静かに立つ覚悟のことだと思う。

「○○さん、今朝から呼吸が少し早くなってきています。ご家族にも連絡を入れておきましょうか」

申し送りのとき、看護師さんがそう静かに言った。
その一言に、場の空気が少しだけ変わった気がした。

今日の担当は僕。
三谷さんも、他の先輩もいない。
——つまり、僕が“最期のそばにいる人”になるのかもしれない。


午前中、○○さんのベッドサイドに向かうと、呼吸は浅く、速くなっていた。
目を閉じて、声をかけても反応はない。
でも、その手のぬくもりは、まだしっかりとそこにあった。

体の向きを整え、口腔ケアをし、唇を湿らせる。
ひとつひとつの動作が、ただの「介護」じゃない気がした。
丁寧に、ゆっくりと、心を込めて。

「涼宮さん、少し来てくれる?」

現場を回っていた涼宮さんを呼んだ。
一緒に更衣の介助をしながら、そっと伝える。

「たぶん、今日が…そのときかもしれない」
涼宮さんは黙ってうなずいた。
その表情は、いつもより少し大人びて見えた。


昼過ぎ、○○さんのご家族が到着した。
ほんの短い面会だったけど、手を握りながら

「ありがとうね。がんばったね」
「ずっと大好きだよ。…ありがとう…」

と、涙をこらえながら声をかけていた。

その声に応えるように、○○さんの胸が、ふうっと上下する。
——そして、最期のときが来た。

呼吸が止まり、看護師が脈を確認する。
医師が到着し、心電図を見ながら静かに告げた。

「○○さん、○時○分、死亡確認しました」

居室の空気が、ふっと変わった気がした。
さっきまでそこにいた“命”が、すっと遠くに行ってしまったような感覚。

僕は、そっと○○さんの手を握ったまま、小さくつぶやいた。

「○○さん…ありがとうございました」


帰り支度をしていると、涼宮さんがぽつりとつぶやいた。

「…すごかったです。みなぎさんの手、すごく優しかった」
「私、ちゃんと…できるかな」

「大丈夫。きっとそのときが来たら、君もわかる」
僕はそう返した。

そして心の中で、こう続けた。
——きっと、強くなれる。君も、僕も。


みなぎの一言日記

今日、自分が“立ち会う側”じゃなく、“見送る側”になった気がする。先輩から学んだ強さを、少しでもつなげたなら、それがきっと介護なんだと思う。

みなぎメモ

  • 呼吸が早くなるのは看取りの兆候のひとつ
  • 体の向きの調整・保清・口腔ケアなど、基本的なことを丁寧に
  • 最期の声かけは、その人を“人として”見送る大切なケア
  • 自分の緊張や不安も、現場での経験が少しずつ変えてくれる

⬅️ 【前話】やる気みなぎの奮闘日記 第7話(認知症ケア)

➡️ 【次話】(次話公開後にリンク設置予定)

📚 【まとめ】
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