明日、僕は試される——だけど、独りじゃない。
~ 不安とプレッシャーの夜、僕に差し伸べられた手 ~
「寝れないや……」
その夜、僕は布団に入っても、目を閉じても、頭の中は真っ白だった。
明日は、介護福祉士の国家試験。
何ヶ月も前から少しずつ準備してきた。
仕事が終わってからの勉強はつらかったけど、あきらめずに続けてきた。
——だけど、今になって怖くなる。
ほんとうに、受かるのかな?
何か、忘れてないかな?
——いや、それ以前に、落ちたらどうしよう。
ため息をついて、枕元のノートを開いた。
その横には、何度も読み返してボロボロになった『受かるんです』のテキスト。
「これだけは、最後まで諦めずに続けてきたんだけどな……」
覚えたはずの知識が、砂みたいに指の間からこぼれていく感覚。
「……ちょっと、行ってみようか」
気持ちを落ち着かせたくて、僕は夜の職場へ足を運んだ。
休みの日だけど、制服姿の職員がちらほら残っている。
その空気に触れるだけで、不思議と安心できた。
現場に顔を出すと、涼風さんがフロアの端で記録を打っていた。
「あれ、みなぎさん。お休みじゃ?」
「ちょっとだけ…気持ちが落ち着かなくて」
「緊張してる顔ですね、明日試験でしょ?」
たしかに、顔に出てたかもしれない。
でも、それを咎めるんじゃなくて、優しく受け止めてくれるその笑顔に、すこし救われる。
「私も高校受験の前の日、ぜんぜん寝れなくて。
ああいう緊張感って、ほんとしんどいですよね」
「……はい、なんか、全部抜けていきそうで」
「大丈夫です。緊張してるのって、ちゃんと準備してきた証拠ですよ」
何気ない言葉なのに、なんだかあったかい。
現場でも、勉強でも。涼風さんは、いつも“支える”のが上手だ。
そのまま更衣室に立ち寄ったとき、ロッカーを開けたら、小さなメモが貼ってあった。
「ファイト! 終わったら焼肉な!」
「ここまで頑張ったの、見てたよ」
「焦らず、深呼吸な〜」
先輩や同期たちの文字が並んでる。
それを見た瞬間、何かがふっとゆるんだ。
「……ほんとに、いい職場だな」
その時、スマホが震えた。
画面には「三谷さん」の名前。
以前お世話になった、やさしくて落ち着いた先輩。
今は、旦那さんの転勤で遠くの地の施設で働いている。
📞「……もしもし、みなぎくん? 今、少しだけ大丈夫?」
「はい……あ、三谷さん……」
📞「明日が試験だって聞いて、応援の気持ちを伝えたくてね」
📞「うまくやろうとしなくていいの。ここまで、ちゃんと頑張ってきたんだから」
📞「声を聞いてるとね、少し大人になったなって思うよ」
📞「きっと今のあなたなら、大丈夫。自分を信じて」
(少し沈黙)
📞「……じゃあね。深呼吸して、しっかり眠るのよ」
「……ありがとうございます。ほんとに、ありがとうございます」
翌朝。
空がほんのり白んできた。
職場とは逆方向、試験会場への道を歩きながら、少しだけ風が心地よい。
メモの言葉、涼風さんの笑顔、三谷さんの声が、背中を押してくれている。
「……よし、行こう」
そう呟いて、僕は試験会場へ向かった。
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