やる気みなぎの奮闘日記 第9話(介護福祉士試験前日)

やる気みなぎ【奮闘日記】

明日、僕は試される——だけど、独りじゃない。

~ 不安とプレッシャーの夜、僕に差し伸べられた手 ~

「寝れないや……」

その夜、僕は布団に入っても、目を閉じても、頭の中は真っ白だった。

明日は、介護福祉士の国家試験。
何ヶ月も前から少しずつ準備してきた。
仕事が終わってからの勉強はつらかったけど、あきらめずに続けてきた。
——だけど、今になって怖くなる。

ほんとうに、受かるのかな?
何か、忘れてないかな?
——いや、それ以前に、落ちたらどうしよう。

ため息をついて、枕元のノートを開いた。
その横には、何度も読み返してボロボロになった『受かるんです』のテキスト。
「これだけは、最後まで諦めずに続けてきたんだけどな……」
覚えたはずの知識が、砂みたいに指の間からこぼれていく感覚。

「……ちょっと、行ってみようか」

気持ちを落ち着かせたくて、僕は夜の職場へ足を運んだ。
休みの日だけど、制服姿の職員がちらほら残っている。
その空気に触れるだけで、不思議と安心できた。


現場に顔を出すと、涼風さんがフロアの端で記録を打っていた。

「あれ、みなぎさん。お休みじゃ?」

「ちょっとだけ…気持ちが落ち着かなくて」

「緊張してる顔ですね、明日試験でしょ?」

たしかに、顔に出てたかもしれない。
でも、それを咎めるんじゃなくて、優しく受け止めてくれるその笑顔に、すこし救われる。

「私も高校受験の前の日、ぜんぜん寝れなくて。
ああいう緊張感って、ほんとしんどいですよね」

「……はい、なんか、全部抜けていきそうで」

「大丈夫です。緊張してるのって、ちゃんと準備してきた証拠ですよ」

何気ない言葉なのに、なんだかあったかい。
現場でも、勉強でも。涼風さんは、いつも“支える”のが上手だ。


そのまま更衣室に立ち寄ったとき、ロッカーを開けたら、小さなメモが貼ってあった。

「ファイト! 終わったら焼肉な!」
「ここまで頑張ったの、見てたよ」
「焦らず、深呼吸な〜」

先輩や同期たちの文字が並んでる。
それを見た瞬間、何かがふっとゆるんだ。

「……ほんとに、いい職場だな」

その時、スマホが震えた。
画面には「三谷さん」の名前。
以前お世話になった、やさしくて落ち着いた先輩。
今は、旦那さんの転勤で遠くの地の施設で働いている。


📞「……もしもし、みなぎくん? 今、少しだけ大丈夫?」

「はい……あ、三谷さん……」

📞「明日が試験だって聞いて、応援の気持ちを伝えたくてね」

📞「うまくやろうとしなくていいの。ここまで、ちゃんと頑張ってきたんだから」

📞「声を聞いてるとね、少し大人になったなって思うよ」

📞「きっと今のあなたなら、大丈夫。自分を信じて」

(少し沈黙)

📞「……じゃあね。深呼吸して、しっかり眠るのよ」

「……ありがとうございます。ほんとに、ありがとうございます」


翌朝。
空がほんのり白んできた。

職場とは逆方向、試験会場への道を歩きながら、少しだけ風が心地よい。
メモの言葉、涼風さんの笑顔、三谷さんの声が、背中を押してくれている。

「……よし、行こう」

そう呟いて、僕は試験会場へ向かった。


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➡️ 【次話】 (次話公開後にリンク設置予定)

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