『カフェの帰り道、語った僕の“ヒヤリ”』
春の午後。今日は外出支援で、近くのカフェに来ていた。
利用者さんとの付き添いに、僕としずくのふたり。
天気もよくて、ちょっとしたレク日和だ。
「また来たいね、ここのコーヒー。」
カップを両手で包んだ利用者さんが、にこっと笑った。
しずくも少しリラックスしていて、「砂糖、お入れしますか?」なんて自然に声をかけていた。
少し前の彼女なら、こんなやりとりもぎこちなかったのに――。
気づけば、僕はテーブル越しにその姿を見守っていた。
「うん、おいしかったよ」と言って、利用者さんはゆっくり立ち上がる。
帰り道、しずくがサッとバッグを持ってあげた。
何でもないその仕草に、僕は思わず目を細めた。
カフェを出て、施設への帰り道。
段差のある小さな階段が見えてきたところで、僕は小声で言った。
「涼風さん、ここの段差ちょっと急やけん、気をつけて」
「はい」と、しずくは少し緊張した顔でうなずいた。
次の瞬間――
「…あっ!」
一瞬、利用者さんの身体が前につんのめる。
反射的に、しずくが腕を支えた。
僕もすぐに横から体を寄せる。
――転倒は防げた。けど、ヒヤッとした。
「だ、大丈夫ですか?」
しずくの声が少しだけ震えていた。
「ん、ちょっと足がもつれただけ。ありがとうねぇ」
笑ってはくれたけど、その笑顔が余計に胸に刺さった。
(あのときの俺は、こうやって声をかけることすらできんかった)
帰り着いたあと、休憩室でしずくとふたりきりになった。
「…ありがとう、さっきのフォロー。助かったよ」
僕は、そう言ってから一呼吸置いて続けた。
「涼風さん、ほんとにナイス判断やった」
しずくは、首をふった。
「でも…もし、私がもう少し離れてたらって思うと…」
その表情が、自分の1年目の顔と重なった。
「……俺、去年、似たようなことがあってさ」
ぽつりと語り出した。
去年の夏、レクで買い物に出た帰り道。
自分の判断ミスで、利用者さんを坂道の端に歩かせてしまったこと。
少し目を離した瞬間、滑りかけたこと。
幸い、事なきを得たけど――その夜、眠れなかったこと。
「誰にも言えんかったけどさ、あれ以来、外出支援はめっちゃ慎重になったんよ」
しずくは、何も言わず、ゆっくりとうなずいた。
「だから今日、涼風さんがちゃんと支えてくれて、正直、ほっとした」
その言葉に、しずくは少しだけ目を見開き、
「…ありがとうございます」と、小さく返した。
あのとき止められなかった僕の手。
でも今日は、ちゃんと誰かを支える手がそばにあった。
🗒️ みなぎの一言日記
ヒヤリって、失敗じゃなくて、気づけるチャンスなのかもしれない。
あの日の自分を話せたことで、少しだけ心が軽くなった。
📌 みなぎメモ
- 外出支援では「楽しさ」だけじゃなく、「安全」も一緒に連れて行こう
- 失敗を語れることも、ひとつの成長
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