やる気みなぎの奮闘日記|第2期 第5話

やる気みなぎ【奮闘日記】

『カフェの帰り道、語った僕の“ヒヤリ”』

春の午後。今日は外出支援で、近くのカフェに来ていた。

利用者さんとの付き添いに、僕としずくのふたり。
天気もよくて、ちょっとしたレク日和だ。

「また来たいね、ここのコーヒー。」

カップを両手で包んだ利用者さんが、にこっと笑った。

しずくも少しリラックスしていて、「砂糖、お入れしますか?」なんて自然に声をかけていた。
少し前の彼女なら、こんなやりとりもぎこちなかったのに――。
気づけば、僕はテーブル越しにその姿を見守っていた。

「うん、おいしかったよ」と言って、利用者さんはゆっくり立ち上がる。
帰り道、しずくがサッとバッグを持ってあげた。
何でもないその仕草に、僕は思わず目を細めた。


カフェを出て、施設への帰り道。
段差のある小さな階段が見えてきたところで、僕は小声で言った。

「涼風さん、ここの段差ちょっと急やけん、気をつけて」

「はい」と、しずくは少し緊張した顔でうなずいた。

次の瞬間――

「…あっ!」

一瞬、利用者さんの身体が前につんのめる。
反射的に、しずくが腕を支えた。
僕もすぐに横から体を寄せる。

――転倒は防げた。けど、ヒヤッとした。

「だ、大丈夫ですか?」
しずくの声が少しだけ震えていた。

「ん、ちょっと足がもつれただけ。ありがとうねぇ」
笑ってはくれたけど、その笑顔が余計に胸に刺さった。

(あのときの俺は、こうやって声をかけることすらできんかった)


帰り着いたあと、休憩室でしずくとふたりきりになった。

「…ありがとう、さっきのフォロー。助かったよ」
僕は、そう言ってから一呼吸置いて続けた。

「涼風さん、ほんとにナイス判断やった」

しずくは、首をふった。

「でも…もし、私がもう少し離れてたらって思うと…」

その表情が、自分の1年目の顔と重なった。

「……俺、去年、似たようなことがあってさ」

ぽつりと語り出した。
去年の夏、レクで買い物に出た帰り道。
自分の判断ミスで、利用者さんを坂道の端に歩かせてしまったこと。
少し目を離した瞬間、滑りかけたこと。
幸い、事なきを得たけど――その夜、眠れなかったこと。

「誰にも言えんかったけどさ、あれ以来、外出支援はめっちゃ慎重になったんよ」

しずくは、何も言わず、ゆっくりとうなずいた。

「だから今日、涼風さんがちゃんと支えてくれて、正直、ほっとした」

その言葉に、しずくは少しだけ目を見開き、
「…ありがとうございます」と、小さく返した。

あのとき止められなかった僕の手。
でも今日は、ちゃんと誰かを支える手がそばにあった。


🗒️ みなぎの一言日記

ヒヤリって、失敗じゃなくて、気づけるチャンスなのかもしれない。
あの日の自分を話せたことで、少しだけ心が軽くなった。

📌 みなぎメモ

  • 外出支援では「楽しさ」だけじゃなく、「安全」も一緒に連れて行こう
  • 失敗を語れることも、ひとつの成長

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